叢状(そうじょう)神経線維腫(PN)とは

PNとは

皮膚より深い部位で、1本の神経に沿って増殖し、複数の神経束及び神経枝に浸潤する可能性がある神経線維腫を叢状(そうじょう)神経線維腫(Plexiform Neurofibroma、PN)と呼びます。

  • 神経の神経線維腫とびまん性神経線維腫が含まれます(神経の神経線維腫、びまん性神経線維腫の写真はこちら)。
  • 一般的に出生時からみられ1)、臨床的に診断可能なものは約30%のNF1患者で2)、全身MRIでスクリーニングすると50~60%の患者で認めるという報告もあります3)4)(海外データ)。
  • 生後10年間に最も急速に増殖5~7)し、症状は青年後期から成人初期にかけて次々とあらわれることがあります8)(海外データ)。
  • 複数の腫瘍が絡まりあって大型化し、下垂や隆起を起こす場合があります。
  • PNは良性腫瘍ですが、合併症により患者さんのADL/QOLを低下させる可能性があります。また、治療がより困難な悪性末梢神経鞘腫瘍(Malignant Peripheral Nerve Sheath Tumor、MPNST)を発症することがあります。
  1. Hannema SE. et al.: Reference Module in Biomedical Sciences: https://doi.org/10.1016/B978-0-12-801238-3.99498-4, 2017
  2. Huson SM. et al.: Brain 111(Pt 6): 1355-1381, 1988
  3. Plotkin SR. et al.: Plos One 7(4): e35711, 2012
  4. Jett K. et al.: Am J Med Genet A 167(7): 1518-1524, 2015
  5. Dombi E. et al.: Neurology 68(9): 643-647, 2007
  6. Tucker T. et al.: J Med Genet 46(2): 81-85, 2009
  7. Nguyen R. et al.: Orphanet J Rare Dis 7: 75, 2012
  8. Williams VC. et al.: Pediatrics 123(1):124-133, 2009
  • 頸部のPN
  • 腋窩のPN
    Miller DT. et al.: Pediatrics 143(5): e20190660, 2019
    Reproduced with permission from Journal Pediatrics, 143(5), e20190660, Copyright © 2019 by the AAP
  • 下肢のPN
    Ehara Y. et al.: J Dermatol 47(2): 190-192, 2020
    Ehara Y et al., Distribution of diffuse plexiform neurofibroma on the body surface in patients with neurofibromatosis 1 © John Wiley and Sons.
  • MRIにおけるPN
    Plotkin SR. et al.: Neurology 87(7 Suppl1): S13-20, 2016
    Plotkin SR et al., Sleep and pulmonary outcomes for clinical trials of airway plexiform neurofibromas in NF1, Neurology, 87(7 Suppl 1), S13-20, https://n.neurology.org/content/87/7_Supplement_1/S13.long
  • 顎下腺のPN
    Aribandi M. et al.: AJNR Am J Neuroradiol 27(1): 126-128, 2006

    右顎下腺の叢状神経線維腫を示す軸位造影CTスキャンの連続画像。 A-C、右咀嚼筋腔(A、黒矢印)、副咽頭筋腔(A、白矢印)及び顎下腺を取り巻く右顎下腺腔に管状の低増幅塊が認められる。右顎下腺は肥大し、正常な左顎下腺と同様に周辺に充実した実質を有する(B、C)。中央に分岐した低増幅の腫瘤があり(C、白矢印)、これが浸潤性叢状神経線維腫である。叢状神経線維腫が舌神経の走行に沿って右舌下腔に進展していることに注意(C、黒矢印)。

PNの臨床課題と診断意義

PNはさまざまな合併症を引き起こす可能性があります。

  • 発症部位/成長速度、腫瘍の形態等により、さまざまなADL/QOL障害を引き起こします9)
  • まれに腫瘍内出血を生じ、生命を脅かすことがあります9)10)
  1. 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編): 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 16-18, 28, 33, 2024
  2. Feng Y. et al.: Eur J Med Res 15(2): 84-87, 2010

介入しない場合、腫瘍容積は増加傾向です。特に小児では、増殖が速い傾向があります(海外データ)。

  • 自然経過観察研究において、PN腫瘍容積は中央値で年間16.0(範囲:-3.2-+136.2)%増加しました(海外データ)(図1)11)
  • 手術不能又は進行性のPNをもつ25歳以下の患者さん(自然経過研究又は臨床試験に参加した者)を対象とした縦断研究では、年齢が低いほどPN体積の増加率が高いことが報告されています(海外データ)(図2-B)5)
  • PNは経時的に増大することが多く、身体的な苦痛のみならず、精神的な苦痛も大きいと考えられています(外見の変形等の問題や病状の進行に対する不安等)9)
  • PNの大きさは関連症状の重症度に影響を与え、より大きい腫瘍ほど運動障害を引き起こす傾向があります9)12)13)
  1. Dombi E. et al.: Neurology 68(9): 643-647, 2007
  2. 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編): 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 16-18, 28, 33, 2024
  3. 社内資料:SPRINT試験第Ⅱ相-1(承認時評価資料)
  4. Gross AM. et al.: Neuro Oncol 20(12): 1643-1651, 2018
  5. Waggoner DJ. et al.: Am J Med Genet 92(2): 132-135, 2000

図1 標的PN腫瘍容積の経時的変化率のspaghetti plot(5.6年間)(海外データ)

SPRINT試験第Ⅱ相-1に年齢を一致させたコホートを示す。手術やMEK阻害剤の影響を受けない最長期間における各患者の特定のPNを追跡した。

(データカットオフ:2018年10月15日)

<Natural history study(海外データ)概要>
【目的】
NF1関連の腫瘍及び腫瘍以外の病態の特性を経時的に評価及び解析し、NF1関連病態の生物学的特性について理解を深める。
【対象】
臨床診断がついた又はNF1変異が確認されたNF1患者176例(2018年10月15日時点)
【方法】
2008年から約10年間患者の組み入れを行い、最後の患者から最長10年間評価を継続する。患者特性、及びPN評価(18歳になるまでは少なくとも年1回、その後は少なくとも3年に1回のvolumetric MRIの評価)のデータを収集する。
【SPRINT試験第Ⅱ相-1における解析計画】
増殖率は、最初のvolumetric MRI評価から最終volumetric MRI評価までの期間(コセルゴ®を含むMEK阻害剤の初回投与前)におけるPN腫瘍容積の年間変化率と定義した。Natural history study及びSPRINT試験第Ⅱ相-1の患者におけるPN増殖率は、粗推定値及び混合効果モデルを用いて評価した。各試験について調整済み平均値を示し、ベースライン時の年齢及び標的PN腫瘍容積が中央値の患者におけるベースライン時から1年後までの予測PN増殖率を示した(SPRINT試験第Ⅱ相-1 の中央値に基づいて算出)。個々の患者の標的PN腫瘍容積の経時的変化率をspaghetti plotに示した。解析時に病勢進行や死亡が確認されなかった患者では、評価可能な最終(Natural history studyではMEK阻害剤開始前の最終の評価日も含む)のvolumetric MRI で打ち切りとした。
【リミテーション】
記載なし
<SPRINT試験(D1532C00057試験)第Ⅱ相-1(海外データ)試験概要>
【目的】
NF1患者のPNに対する抗腫瘍効果及び臨床転帰から有効性を検討し、安全性についても検討する。
【対象】
PN関連の病的状態を伴い、手術不能なPNを有する小児期のNF1患者50例
【方法】
コセルゴ®25mg/m²(体表面積)1日2回(約12時間毎)を連日経口投与し、コセルゴ®の有効性・安全性を評価する。
【リミテーション】
NF1患者に対して未検証のアウトカム指標が含まれている。

図2 1年あたりの体重増加率及び1年あたりのPN体積増加率、年齢の関係(海外データ)

8.3歳以下群では21.1%/年、8.3歳超群では8.4%/年で、8.3歳以下群で有意に高い増加率が認められた(p=0.0010、両側Wilcoxonの符号順位和検定)。

  • Dombi E et al., NF1 plexiform neurofibroma growth rate by volumetric MRI: relationship to age and body weight, Neurology, 68(9), 643-647, https://n.neurology.org/content/68/9/643.long
<試験概要>
【目的】
手術不能/症候性/進行性PNを有するNF1患者における腫瘍体積の変化と年齢、体重増加の関係を縦断的に解析すること
【対象】
手術不能/症候性/進行性PNを有する25歳以下(年齢中央値8.3歳)のNF1患者49例
【方法】
対象患者が有する61個のPNについて、自然経過におけるPN体積をMRIにより16か月以上測定し、 図2-A:1年あたりの体重増加率及び1年あたりのPN体積増加率の関係、図2-B:年齢と1年あたりのPN体積増加率の関係、図2-C:年齢と1年あたりの体重増加率の関係をそれぞれ検討した。年齢とPN体積増加率(図2-B)は、指数関数に当てはめて記述した。両者の関係は、年齢中央値である8.3歳以下群と8.3歳超群でPN体積増加率/年の中央値を算出し、両側Wilcoxonの符号順位和検定で解析した。PN量の20%増加は、疾患の進行と定義された。
【リミテーション】
一部の患者においてPN体積の変化に臨床試験による治療が関与している可能性がある。比較的短い評価期間(中央値34か月)であること、症候性/進行性PNをもつ若い患者がほとんどであることより、観察には限界がある。MRI画像にすべてのPNが含まれなかった、又は同じプロトコルにより撮影されなかった場合には、縦断的な体積評価は実施していない。3歳未満の患者は含まれていない。

参考:同一患者の経時的変化(海外データ) ※10.5年で腫瘍容積が235%増加

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

予後不良な悪性腫瘍へ転化するリスクがあります。

  • NF1患者さんは、一般集団より平均寿命が8~15年短いこと9) 14-16)、最もリスクの高い死因は結合組織及び軟部組織の悪性新生物(MPNST)であることが報告されています(海外データ)14)
  • MPNSTはNF1患者さんの8~15%程度に発症し17-19)、発症時の年齢中央値は26歳という報告があります17)(すべて海外データ)。
  • MPNSTは予後不良な腫瘍です9)
    • 化学療法や放射線療法に対する反応が不良であり、広範囲切除による手術治療が唯一の治癒をめざせる治療法です9)。ただし、腫瘍の境界が不明瞭、発生部位が体幹深部、重要臓器に浸潤等の理由から十分な切除縁の確保が難しいことも多いです9)
    • 比較的早期から遠隔転移をきたすことがあります20)
    • 軟部肉腫のなかでも、5年生存率が低い(~40%)とされています9)21)
  • PNはこのMPNSTの前駆病態と考えられています9)。最近では、PNが中間型腫瘍に変化し、中間型腫瘍がMPNSTに転化することが明らかになってきています9)
  • MPNSTの早期発見は、生命予後改善のために不可欠だと考えられています22)。そのため、MPNSTを疑う臨床所見(疼痛、急速な腫瘍増殖、神経症状、深部や体幹に位置するPN)、及びリスクファクター(NF1遺伝子の生殖細胞系列バリアント[microdeletion]23)、放射線療法歴21) 24) 25))を認識しておくことが非常に重要です22)

参考:PN、Atypical neurofibroma、MPNST(海外データ)

  • Kim A. et al.: Sarcoma 2017: 7429697, 2017より作成
  1. 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編): 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 序文, 16-17, 49, 2024
  2. Rasmussen SA. et al.: Am J Hum Genet 68(5): 1110-1118, 2001
  3. Duong TA. et al.: Orphanet J Rare Dis 6: 18, 2011
  4. Zöller M. et al.: Acta Derm Venereol 75(2): 136-140, 1995
  5. Evans DG. et al.: J Med Genet 39(5): 311-314, 2002
  6. Gupta G. et al.: Neurosurg Focus 22(6): E12, 2007
  7. Landry JP. et al.: JAMA Network Open 4(3): e210945, 2021
  8. 神経線維腫症1型診療ガイドライン改定委員会(編). 日皮会誌 128(1): 17-34, 2018
  9. Ducatman BS. et al.: Cancer 57(10): 2006-2021, 1986
  10. Stewart DR. et al.: Genet Med 20(7): 671-682, 2018[COI:著者の中には、アレクシオンファーマ合同会社のコンサルタント担当、又は謝礼金を受領している者、アストラゼネカ株式会社より渡航費を受領している者が含まれる]
  11. Raedt TD. et al.: Am J Hum Genet 72(5): 1288-1292, 2003
  12. Ducatman BS. et al.: Cancer 51(6): 1028-1033, 1983
  13. Meadows AT. et al.: J Clin Oncol 3(4): 532-538, 1985

  • 腫瘍が増大する前にPNを早期発見することで適切なケアを行い、合併症によるADL/QOL低下を出来る限り軽減することが望ましいとされています。
  • MPNSTの早期発見のために、前駆病態であるPNを定期的にフォローしましょう。

    ※もしMPNSTを疑う場合は、急ぎ対応が必要です。腫瘍専門医に紹介するなど、診断・治療のための行動をぜひご検討ください。

PNのスクリーニング方法

臨床評価は診断時又は出生時から開始し、受診毎に実施することが、ERN GENTURISガイドラインで推奨されています26)。また、検査によるアプローチも重要です。

  • ERN GENTURIS(European Reference Network on Genetic Tumour Risk Syndromes)ガイドライン:遺伝性腫瘍症候群に関係する欧州の団体によって作成された、NF1患者に携わる医療関係者のための腫瘍サーベイランスガイドライン
  1. Huson SM. et al.: Brain 111(Pt 6): 1355-1381, 1988
  2. Plotkin SR. et al.: Plos One 7(4): e35711, 2012
  3. Jett K. et al.: Am J Med Genet A 167(7): 1518-1524, 2015
  4. 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編): 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 16-18, 28, 33, 2024
  5. Carton C. et al.: EClinicalMedicine 56: 101818, 2023[COI:著者の中には、アストラゼネカ株式会社より資金提供を受けた者が含まれる]
    https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

PNのスクリーニングに関するガイドラインの記載

『叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍 診療ガイドライン』

Clinical Question(一部抜粋)9)

CQ2
叢状神経線維腫のスクリーニングにWhole Body MRIは有用か?
推 奨

神経線維腫症1型患者における叢状神経線維腫のスクリーニングにWhole Body MRIを用いることを条件付きで推奨する。

推奨度 合意率 エビデンスの強さ
弱い 100%(13/13) D**

* 行うこと、あるいは行わないことを提案する、あるいは条件付きで推奨する
** 非常に弱い:効果の推定値がほとんど確信できない

『NF1患者のためのERN GENTURIS ガイドライン』

叢状神経線維腫に関する推奨事項(一部抜粋)26)

  1. モニタリングとしての全身MRIは、MPNSTへの悪性化リスクの予測として内部腫瘍の疾病負荷を評価するため、少なくとも小児から成人への移行期に実施すべきである。MPNSTのリスクが高い患者には、頻回な全身MRIを考慮してもよい。(エビデンスレベル:低

* 総意ではないが、専門家の多数の支持あり/一貫性のあるエビデンスなし

  1. 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編): 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 16-18, 28, 33, 2024
  2. Carton C. et al.: EClinicalMedicine 56: 101818, 2023[COI:著者の中には、アストラゼネカ株式会社より資金提供を受けた者が含まれる]
    https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

PNの治療選択肢

『叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン』のアルゴリズムでは、症候性のPNに対する治療選択肢として手術治療、薬物治療、経過観察の3つが示されています9)

  1. 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編): 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 16-18, 28, 33, 2024

叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍 診療アルゴリズムにおけるクリニカルクエスチョン

PNの治療に関するガイドラインの記載

『叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍 診療ガイドライン』

Clinical Question(一部抜粋)9)

CQ3
症候性の叢状神経線維腫に手術治療は有用か?
推 奨

症候性の叢状神経線維腫に手術治療を実施することを条件付きで推奨する。

推奨度 合意率 エビデンスの強さ
弱い 1回目78.6%(11/14)
2回目76.9%(10/13)
3回目81.8%(9/11)
D**

* 行うこと、あるいは行わないことを提案する、あるいは条件付きで推奨する
** 非常に弱い:効果の推定値がほとんど確信できない

CQ4
手術不能、症候性の叢状神経線維腫に分子標的薬は有用か?
推 奨

手術不能、症候性の叢状神経線維腫に分子標的薬を用いた治療を行うことを提案する。

推奨度 合意率 エビデンスの強さ
弱い 83.3%(5/6) C**

* 行うこと、あるいは行わないことを提案する、あるいは条件付きで推奨する
** 弱い:効果の推定値に対する確信は限定的である

  1. 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編): 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 16-18, 28, 33, 2024

ガイドラインの記載も参考に、患者さんへの治療をご検討ください。