叢状(そうじょう)神経線維腫(PN)とは

PNとは

皮膚より深い部位で、1本の神経に沿って増殖し、複数の神経束及び神経枝に浸潤する可能性がある神経線維腫を叢状(そうじょう)神経線維腫(Plexiform Neurofibroma、PN)と呼びます。

  • 神経の神経線維腫とびまん性神経線維腫が含まれる、1本又は複数の神経幹や神経枝から発生する神経線維腫です。複数の腫瘍が絡まりあって大型化し、下垂や隆起を起こす場合があります。一般に出生時からみられ1)、約20~50%のNF1患者で認められます2)3)(海外データ)。生後10年間に最も急速に増殖4)~6)し、症状は青年後期から成人初期にかけて次々とあらわれることがあります7)(海外データ)。神経の神経線維腫、びまん性神経線維腫の症例写真はこちら
  • PNは良性腫瘍ですが、そのサイズ、場所、浸潤性によっては運動障害、疼痛等の合併症により患者さんのQOLを低下させる可能性があります。また、治療がより困難な悪性末梢神経鞘腫瘍(Malignant Peripheral Nerve Sheath Tumor、MPNST)を発症することがあります。

1)Hannema SE. et al.: Reference Module in Biomedical Sciences: https://doi.org/10.1016/B978-0-12-801238-3.99498-4, 2017
2)Mautner VF. et al.: Neuro Oncol 10(4): 593-598, 2008
3)Korf BR.: Am J Med Genet 89(1): 31-37, 1999
4)Dombi E. et al.: Neurology 68(9): 643-647, 2007
5)Tucker T. et al.: J Med Genet 46(2):81-85, 2009
6)Nguyen R. et al.: Orphanet J Rare Dis 7: 75, 2012
7)Williams VC. et al.: Pediatrics 123(1):124-133, 2009

8)Miller DT. et al.: Pediatrics 143(5): e20190660, 2019
Reproduced with permission from Journal Pediatrics, 143(5), e20190660, Copyright © 2019 by the AAP
9)Ehara Y. et al.: J Dermatol 47(2): 190-192, 2020
Ehara Y et al., Distribution of diffuse plexiform neurofibroma on the body surface in patients with neurofibromatosis 1 © John Wiley and Sons.
10)Plotkin SR. et al.: Neurology 87(7 Suppl1): S13-20, 2016
Plotkin SR et al., Sleep and pulmonary outcomes for clinical trials of airway plexiform neurofibromas in NF1, Neurology, 87(7 Suppl 1), S13-20, https://n.neurology.org/content/87/7_Supplement_1/S13.long
  • 11)M Aribandi et al.: CT features of plexiform neurofibroma of the submandibular gland.AJNR Am J Neuroradiol. 2006 Jan;27(1):126-8.
    右顎下腺の叢状神経線維腫を示す軸位造影CTスキャンの連続画像。 A-C、右咀嚼筋腔(A、黒矢印)、副咽頭筋腔(A、白矢印)及び顎下腺を取り巻く右顎下腺腔に管状の低増幅塊が認められる。右顎下腺は肥大し、正常な左顎下腺と同様に周辺に充実した実質を有する(B、C)。中央に分岐した低増幅の腫瘤があり(C、白矢印)、これが浸潤性叢状神経線維腫である。叢状神経線維腫が舌神経の走行に沿って右舌下腔に進展していることに注意(C、黒矢印)。

早期発見とフォローアップ、治療介入の重要性

PNの臨床課題①:ADL・QOLの障害、患者活動への障害

  • PNは、皮膚の神経線維腫より深い部位に発生し、下のような合併症を引き起こします。これらの症状は、腫瘍の増大に伴って悪化する傾向があり、ADL・QOLの障害、患者活動への障害につながります。
  • Natural history study(自然経過観察研究)では、PNの腫瘍の大きさについて以下のように報告されています。
  • PN腫瘍容積は、年間平均で21.3(95%CI:15.9-26.8)%増加しました(調整済み)。
  • 1年以内にPNの20%以上の自然縮小は認められませんでした。

* ベースライン時の年齢とPN腫瘍容積の中央値に基づき調整

  • ※グラフはNatural history studyのうちSPRINT試験(D1532C00057試験)第Ⅱ相-1に年齢を一致させたコホートである。

<Natural history study(海外データ)概要>
【対象・方法】臨床診断がついた又はNF1変異が確認されたNF1患者176例(2018年10月15日時点)を対象に、2008年から約10年間患者の組み入れを行い、最後の患者から最長10年間評価を継続する。患者特性、及び、PN評価(18歳になるまでは少なくとも年1回、その後は少なくとも3年に1回のvolumetric MRI評価)のデータを収集する。

<SPRINT試験(D1532C00057試験)第Ⅱ相-1(海外データ)試験概要>
【対象・方法】組み入れ時にPN関連の病的状態を伴い、手術不能なPNを有する小児期のNF1患者50例を対象に、コセルゴ25mg/m2(体表面積)1日2回(約12時間毎)を連日経口投与し、コセルゴの有効性・安全性を評価する。

  • 参考として、図は頚部PNの経時的な変化に関する報告です 12)。10.5年で、腫瘍容積が235%増加しました。

※紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

PNの臨床課題②:腫瘍の悪性化

  • 米国の研究において、NF1患者の寿命は一般集団と比較し10~15年短いこと13)、NF1患者で最もリスクの高い死因は結合組織及び軟部組織の悪性新生物(MPNST)であることが報告されています(海外データ)。MPNSTはPN(特に神経の神経線維腫)を発生母地とするため14)、注意深い観察が必要とされます。

したがって、腫瘍が増大する前にPNを早期発見することで適切なケアを行い、合併症によるQOLの低下をできる限り軽減することが望ましいとされています。

11)Korf BR. et al.: Neurofibromatosis a handbook for patients, families, and health care professionals, 2nd ed. Thieme, New York: 104, 2005
12)Gross AM. et al. Neuro Oncol. 20(12)1643-1651, 2018
13)Landry JP. et al.: JAMA Network Open 4(3): e210945, 2021
14)Miettinen MM. et al.: Hum Pathol 67: 1-10, 2017

PNの治療

PNに対しては以下のような治療方法があります。

成長が速い小児のPN

  • PNの増殖速度は特に小児で速い傾向があります。
    手術不能または進行性のPNをもつ25歳以下の患者さん(自然経過研究または臨床試験に参加した者)を対象とした縦断研究では、年齢が低いほどPN体積の増加率が高いことが報告されています(海外データ)(図-B)5)
  • そのため、特に小児の患者さんの経過観察では、PNの発生や増大に注意が必要です。
  • PNは皮膚表面から確認できない場合もあるため、必要に応じてMRIによるPNの有無を確認することも考慮します。

図 1年あたりの体重増加率及び1年あたりのPN体積増加率、年齢の関係(海外データ)

【対象】手術不能または進行性のPNを持つ25歳以下(年齢中央値8.3歳)のNF1患者49例
【方法(図-B)】対象患者が有する61個のPNについて、自然経過におけるPN体積をMRIにより16か月以上測定し、 図A:1年あたりの体重増加率及び1年あたりのPN体積増加率の関係、図B:年齢と1年あたりのPN体積増加率の関係、図C:年齢と1年あたりの体重増加率の関係をそれぞれ検討した。年齢とPN体積増加率は、指数関数に当てはめて記述した。両者の関係は、年齢中央値である8.3歳以下群と8.3歳超群でPN体積増加率/年の中央値を算出し、両側Wilcoxonの符号順位和検定で解析した。PN量の20%増加は、疾患の進行と定義された。
【結果】8.3歳以下群では21.1%/年、8.3歳超群では8.4%/年で8.3 歳以下群で有意に高い増加率が認められた(p=0.0010、両側Wilcoxonの符号順位和検定)。

5)Dombi E. et al.: Neurology 68(9): 643-647, 2007
Dombi E et al., NF1 plexiform neurofibroma growth rate by volumetric MRI: relationship to age and body weight, Neurology, 68(9), 643-647, https://n.neurology.org/content/68/9/643.long